ショッピングモールにおける『人的資本経営』の戦略的意義

　人的資本経営とは、企業や組織が従業員（人的資本）を単なる労働力としてではなく、戦略的な資源として捉え、その能力や知識、経験を最大限に活かして企業価値を高める経営手法を指します。人的資本は従業員が持つスキル、知識、経験、ネットワークなど、経済的価値を生み出す要素のことです。
　ショッピングモールにおいて、テナントショップはモール全体の顧客体験を左右する重要な要素です。そのため、商業施設の運営管理を行う企業（プロパティマネジメント会社）が人的資本経営を推進し、テナントの従業員の能力を最大限に引き出す取り組みは、モール全体の成功に大きく寄与します。ショッピングモールにおいて、人的資本経営を推進する重要性とそのメリットは次のとおりです。

1. 顧客体験の向上

　ショッピングモールの顧客体験は、テナントの従業員が提供するサービスや接客に大きく依存しています。テナントの人的資本に焦点を当て、従業員のスキルやモチベーションを向上させることで、お客さまはより良いサービスを受けることができ、モール全体の満足度や評価が向上します。このようなポジティブな体験は、リピーターの増加や口コミによる新規顧客の獲得にもつながるでしょう。

2. テナントとの関係強化

　テナントショップに対して、教育や研修を通じて従業員の能力向上を支援することは、商業施設の運営会社とテナントとの長期的な信頼関係を築くために有効です。テナントショップ側が従業員の成長を実感できるようなサポートを提供することで、強固なパートナーシップが形成されます。

3. モール全体のブランド価値向上

　従業員のサービス水準が高くなると、モール全体のブランド価値が一貫して向上します。お客さまは「どの店舗に入っても質の高い接客が受けられる」という安心感を得ることができ、モールの魅力をさらに高めることができます。

4. 離職率の低下とコスト削減

　人的資本経営を推進することで、テナント従業員は自身の成長を実感し、仕事に対するやりがいやモチベーションが高まります。こうした前向きな意識の醸成は職場への定着意欲を高め、結果として離職率の低下につながります。離職が減ることで新規採用や教育にかかる時間的コストを抑えられるほか、サービスの質も安定し、テナントショップの経営基盤が強化されます。これがモール全体の運営にも好影響をもたらすのです。

5. デジタル化やトレンドへの柔軟な対応

　現代のショッピングモールは、デジタル化や消費者のニーズの変化に対応することが求められています。人的資本経営を推進することで、テナント従業員が最新のトレンドや技術に適応しやすくなり、競争力を維持することが可能になります。商業施設の運営会社がそのプロセスをサポートすることは、モール全体の成長に寄与するでしょう。

6. 共通のビジョンと文化の形成

　人的資本経営を通じて、モール全体に共通のビジョンや文化を醸成することができます。これにより、テナントショップごとのサービスに一貫性が生まれ、顧客にとっての満足度が向上します。統一感のある顧客体験は、モール全体のブランド力を強化する重要な要素です。

まとめ

　テナントに向けて人的資本経営を推進することは、モール全体の価値を高め、競争力を維持するための重要なステップです。教育研修を通じた従業員の成長支援はテナントの成功を支えるだけでなく、モール全体の発展に欠かせない要素となるでしょう。

出典：経済産業省『人的資本経営 ～人材の価値を最大限に引き出す～』